音楽において、もっとも身体的な動きと密接な関係にあるドラムス。単に的確なリズムをキープさせるだけでなく、拍子やアクセントを微妙にずらすことでタメや変化をつけ、ノリやグルーブを生み出し、曲に命を吹き込む。その両側面に類いまれなセンスを持ち合わせるウォルフガング・ハフナー。2010年9月現在、350もの作品に参加し、ツアーやフェスティバルで訪れた国々は50を超える、超売れっ子ドラマー。リーダー名義のアルバムも11を数え、この『Whatever It Is』は1991年2月に録音された通算4作目にあたる真摯な正統派ジャズクインテット作品である。彼の抜群な打点の構成に着目しながら、このアルバムをご堪能ください。
オープニングトラック「Whatever It Is」はハフナー自身の作品。ジャズの醍醐味を凝縮した渾身ソロが、まるでメンバー紹介をしているよう。「For The Time Being」はショパンの[ノクターン 第2番 変ホ長調]にインスパイアされたのか?と思わせるような美旋律を奏でるトランペット。夕暮れ時のブルーモーメントにぴったりの、バート・ジョリスの傑作。名手ダド・モロニーの滴り落ちる水滴のように美しいピアノが白眉な「1.2.79」。ハフナーと並び、屋台骨として支えるベーシスト、トーマス・スタベノーヴの作品。ラスト15秒を切ってからの深い透明感は、陶酔の粋。そして、ラストを飾る「Cute」でのハフナーとスタベノーヴの語らいは、このアルバムを忘れることのできない一枚として、あなたの心に刻まれることでしょう。
Text by 前泊 正人